『嘘つき』 ヘンリー・ジェイムズ(福武文庫)

嘘つき (福武文庫)嘘つき (福武文庫)

書名:嘘つき
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:行方 昭夫
出版社:福武書店
ページ数:229

おすすめ度:★★★★




ジェイムズの中編作品三編を収録したのが本書『嘘つき』である。
表題作の他に『五十男の日記』と『モード・イーヴリン』を収録しており、三作のジャンルは違えど、いずれも非常にジェイムズらしい作品ばかりとなっている。

思い出の地であるフィレンツェを訪れ、そこでかつての自分と境遇の似通った若者と出会う『五十男の日記』。
イタリアを主な舞台としている点や、過去が曖昧に語られる点などにジェイムズの特徴が色濃く表れている。
昔恋した女性の結婚相手が、容姿端麗ながら虚言癖のある大佐であるという『嘘つき』。
実質的な登場人物は3人だけであるにもかかわらず、彼らの微妙な心理模様は最後の1ページに至るまで読者の興味をそそってやまないことだろう。
『モード・イーヴリン』について多くを語ることは控えたいと思うが、というのもこれが幻想的な作品だからだ。
ねじの回転』のような面白さと難しさを兼ね備えていて、それぞれの読み手が各々の解釈を楽しむことができるように思う。

『嘘つき』は、主人公の職業を画家に設定するという、ジェイムズにとって手慣れた方法を採っている。
上流階級の人士を細部に至るまで観察し、その印象を自身の内部で咀嚼し、それを画面に描き出すのが画家の仕事であるから、「視点」となる主人公を画家にするというのは、主人公の観察力が大きく物を言うジェイムズの作品にとっては格好の設定と言えるのかもしれない。

本書に収録されている三編は、いずれもストーリーテラーとしてのジェイムズの手腕が顕著に感じられる作品ばかりである。
ジェイムズ作品を数多く翻訳している行方氏の訳文は非常に読みやすいので、ジェイムズの作品をあまり知らない方が読んでも十分楽しめるだろうし、ジェイムズのファンならば本書に見られるジェイムズの流れるような文体を心行くまで堪能できるのではなかろうか。
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