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『スペイン武勇尼僧伝』 ド・クインシー(評論社)

スペイン武勇尼僧伝 (1965年)スペイン武勇尼僧伝 (1965年)

書名:スペイン武勇尼僧伝
著者:トマス・ド・クインシー
訳者:岩田 一男
出版社:評論社
ページ数:229

おすすめ度:★★★★




阿片常用者の告白』で知られるド・クインシーの作品で、数少ない単行本化されているものの一つがこの『スペイン武勇尼僧伝』だ。
タイトルから察して、武装して戦場に赴いた尼僧をイメージしてしまうかもしれないが、実は「武勇尼僧伝」というタイトルが意訳であり、本書の主人公は厳密に言えば尼僧ではない。
名家に生まれながらも女子だという理由で生まれてすぐに修道院に預けられていた少女が、修道院を脱走するところから彼女の武勇伝が始まるのである。

読者はみな、とても実話とは思えない彼女の波乱万丈の生涯に驚かされるに違いない。
多くの戦いを経験し、海で死にかけ、山でも命を落としかける・・・。
彼女の責任とは言い難い事情で頻繁に逃げ場のない状況に身を置かざるをえないのは、何とも不運としか言いようがないが、彼女は普通の人間であれば優に十回は死んでしまうような数々の危機を優れた決断力と行動力で次々と打開していく。
その様は、修道院から逃げ出したにもかかわらず神の特別な加護を得ているのではないかと思いたくなるほどだ。
また、個人的には本書の幕切れもたいへん気に入っており、最後の最後まで楽しませてくれる作品という印象を持っている。

比類なき視点の鋭さと機知に富んだ文体によって、読書を趣味とする人が読めば好きにならざるを得ないのがド・クインシーではなかろうか。
近年になって岩波文庫から改版された『阿片常用者の告白』の影響もあって、今日の日本にも、イギリス屈指の名文家として名高いド・クインシーに少なからざるファンがいると確信しているが、翻訳出版の状況は寂しい限りである。
出版年も古く、流通量も少ないが、ド・クインシーに興味のある方はこの『スペイン武勇尼僧伝』を手にしてみていただければと思う。
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