『マーティン・チャズルウィット』 ディケンズ(ちくま文庫)

マーティン・チャズルウィット〈上〉 (ちくま文庫)マーティン・チャズルウィット〈上〉 (ちくま文庫)マーティン・チャズルウイット〈中〉 (ちくま文庫)マーティン・チャズルウイット〈中〉 (ちくま文庫)

マーティン・チャズルウィット〈下〉 (ちくま文庫)マーティン・チャズルウィット〈下〉 (ちくま文庫)

書名:マーティン・チャズルウィット
著者:チャールズ・ディケンズ
訳者:北川 悌二
出版社:筑摩書房
ページ数:621(上)、544(中)、506(下)

おすすめ度:★★★★




『マーティン・チャズルウィット』はディケンズ中期の長編作品の一つである。
全般に明るさを基調とする物語ではあるが、時としてうねうねと蛇行するような妙に長い一文があったり、感傷的な文句が書き連ねられていたりするところからしても、いかにもディケンズらしい作品と言えるはずだ。

年老いた富豪のマーティン・チャズルウィットは、周囲の誰もが彼の財産だけを狙っていると固く信じ込み、親戚一同を毛嫌いするようになっている。
その結果、彼が育てた同名の孫のマーティンでさえ縁を切られてしまい・・・。
ディケンズの他の小説と同様、『マーティン・チャズルウィット』にもいろいろな個性的キャラクターが勢揃いしているが、中でも文学史上まれに見る程の偽善者であるペックスニフは、とても興味深い人物像になっていると言えるのではなかろうか。
他方、ペックスニフの使用人であり、良くも悪くもシンプルと形容されるトム・ピンチに対しては、興味深いとは感じないかもしれないが、並々ならぬ好感を抱くに違いない。

『マーティン・チャズルウィット』の特徴といえば、やはりアメリカを舞台にするという点であろう。
アメリカの人々は決して好意的に描かれてはいず、ディケンズの筆が繰り出す滑稽味豊かな風刺が多少きつすぎる気がしないでもないが、それはディケンズ自身が経験した苦い思い出に由来しているのだろう。
そしてそのあまり好ましくない思い出は『アメリカ紀行』というディケンズの旅行記に結実しているので、本書の読者には『アメリカ紀行』を併せて読まれることを強くお勧めしたいと思う。

『マーティン・チャズルウィット』は、ディケンズの作風が行き当たりばったりの先行き知れずから、明確な構成を持った作品へと移行していく過渡期にあたる作品であるらしい。
確かに、ディケンズならではのユーモアがふんだんに盛り込まれた筋書きの面白さは損なわれておらず、それでいて大まかながら作品としてのまとまりもある。
さほど有名な作品ではないものの、ディケンズのファンならば一読すべき作品であると思う。
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