『かもめ』 チェーホフ(岩波文庫)

かもめ (岩波文庫)かもめ (岩波文庫)

書名:かもめ
著者:アントン・チェーホフ
訳者:浦 雅春
出版社:岩波書店
ページ数:192

おすすめ度:★★★★★




チェーホフの、そしてロシア文学界を代表する戯曲作品といえばこの『かもめ』ではなかろうか。
今日の日本でもしばしば舞台で上演されているほどに有名かつ息の長い作品なので、その原作に触れてみても損はないと思う。
主たるストーリーが軸となるのではなく、全体として一つの雰囲気を作り上げていく『かもめ』に対しては、読者の好き嫌いが分かれるかもしれないが、少なくとも一度試してみる価値はあるはずだ。

作家を志す青年、高名な女優であるその母、女優を目指す若き乙女、名のある作家、田舎教師に田舎医者などといった登場人物が、いくつかの鮮やかな恋模様を花開かせ、それぞれの人生観のぶつかり合いがまばゆい火花を散らす。
それらが原型を留めたままで混ざり合い、美しいマーブル模様を描き出す。
それこそがやはり『かもめ』の本質であり、読者が鑑賞すべき最大の醍醐味なのではなかろうか。

今日の読者であれば、それほど『かもめ』の斬新さを感じることができないかもしれない。
これといった筋書きがなく、明確な主人公を持たずに複数の登場人物から成る群像を描いたような映画などを、誰しも一度は見たことがあるのではないかと思うからだ。
もちろんそのようなスタイルの作品がもっぱらチェーホフと『かもめ』の存在に由来するものだと言いたいわけではないが、チェーホフ風のストーリー展開が一つの潮流になっていて、その源の一つがこの『かもめ』であると言っても言い過ぎではないはずだ。

『かもめ』に限った話ではないが、チェーホフの作品を読むに当たっては、読者は知性の働きよりも、感性の鋭さを解き放つべきだろう。
そうすることで、チェーホフが作り上げた微妙な味わいをより深く感じ取り、チェーホフ作品の虜となるに違いない。
『かもめ』を足掛かりに、ぜひチェーホフの他の戯曲や小説を読み進めていただければと思う。
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