『桜の園』 チェーホフ(岩波文庫)
桜の園 (岩波文庫) |
書名:桜の園
著者:アントン・チェーホフ
訳者:小野 理子
出版社:岩波書店
ページ数:173
おすすめ度:★★★★☆
著者:アントン・チェーホフ
訳者:小野 理子
出版社:岩波書店
ページ数:173
おすすめ度:★★★★☆
44歳で生涯を終えたチェーホフの、最晩年に書かれた最後の戯曲作品がこの『桜の園』である。
四幕の喜劇と題されてはいるものの、没落していく名家を描いていることからもわかるように、一般的な意味合いでの喜劇的作品ではないように思われる。
金銭感覚に疎い女主人ラネーフスカヤの浪費がたたり、美しい桜の園を含む土地家屋が競売に出されることになってしまった。
旧弊な考えを抱いている女主人の兄、実際的な感覚に富んだ養女、新思想を持ち込む学生、生きた化石のような老僕などといった幅広い視点の絡み合いが、『桜の園』においても秀逸な人間模様を描き出している。
劇全体を通じて、何種類かの悲哀が語られるが、自業自得とでも言うべき個人的なものが多く、あまり読者の同情を喚起することはないのではないかと思うが、それは私たちが20世紀的なより合理的な感情を持つ人間であるからかもしれない。
とはいえ、登場人物たちの個人的な悲哀が、当時のロシアの社会的な状況の変化とも結びついていることは注目に値するだろう。
検閲で削除された箇所が数点あるということからもわかるように、チェーホフの社会批判が見られるというのが『桜の園』の特徴の一つになっている。
とはいえ、削除された箇所においてそれほど過激な思想が述べられているわけではなく、単に当時のロシア帝国の検閲がきわめて非寛容だっただけのような気もするのだが。
劇中で、いろいろな象徴としての意味を持つ「桜の園」ではあるが、この作品が実際に舞台にかけられるときには、桜の園をどういうふうに扱うかが演出家の腕の見せどころの一つとなるはずだ。
登場人物がたびたび桜の園の美しさに言及するのもあって、『桜の園』は本で読むだけではなく、舞台で上演されているのも見てみたくなる、そんな作品だと言えるだろう。
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