『六号病棟・退屈な話』 チェーホフ(岩波文庫)

六号病棟・退屈な話(他5篇) (岩波文庫)六号病棟・退屈な話(他5篇) (岩波文庫)

書名:六号病棟・退屈な話 他五篇
著者:アントン・チェーホフ
訳者:松下 裕
出版社:岩波書店
ページ数:391

おすすめ度:★★★★★




「医者・医学」をテーマに編まれたチェーホフの作品集が本書『六号病棟・退屈な話 他五篇』だ。
『敵』や『黒衣の僧』といった併録されている作品もなかなか面白いが、なんといってもいずれもチェーホフの代表作に数えられている表題作の二作は桁違いによくできている。
この二作は100ページを超える中編作品なので、他の短編作品と単純に比較すべきでもないのかもしれないが、その完成度の高さは誰もが感じ取ることができるのではなかろうか。

チェーホフ最晩年の短編作品の一つである『六号病棟』では、田舎町にある精神病患者を隔離する病棟と、教養人としての自負を抱いた院長先生を描いている。
俗物ばかりの田舎町で見つけた、知的好奇心を満たしてくれる話し相手が、なんと精神病患者だったものだから・・・。
ゴーゴリの『狂人日記』を想起させがちな作品ではあるが、随所にチェーホフの私見を窺える『六号病棟』は、思想性豊かなオリジナリティに富んだ作品であると言えると思う。
全体に明るい雰囲気に支配されているのも、いかにもチェーホフらしいと言えるだろうか。

世界的に高名な老教授の晩年を描く『退屈な話』も、なかなかどうして「退屈な話」どころではない。
社会的には偉大な成功者であるはずの教授ではあるが、自らの余命がそう長くないことを悟っている今、家族との心的距離はかけ離れている上に、周囲のことにそもそも関心が持てなくなっているし、満たされない気持ちでいっぱいである。
主人公をチェーホフに置き換えて考えることは誤りであろうが、こちらもチェーホフの心の声を垣間見ることができる作品になっていて興味深い。

『六号病棟』も『退屈な話』も、チェーホフを知る上で欠かすことのできない重要な作品であることは間違いない。
短編作品では味わえない奥深さを、これらの代表的中編作品で堪能していただければと思う。
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