『ともしび・谷間』 チェーホフ(岩波文庫)

ともしび・谷間 他7篇 (岩波文庫)ともしび・谷間 他7篇 (岩波文庫)

書名:ともしび・谷間 他七篇
著者:アントン・チェーホフ
訳者:松下 裕
出版社:岩波書店
ページ数:392

おすすめ度:★★★★




表題作の他、『美女』、『気まぐれ女』、『箱に入った男』、『すぐり』、『恋について』、『僧正』、『いいなずけ』を収録した短編集が本書『ともしび・谷間 他七篇』である。
『曠野』以降の作品、いわばチェーホフ円熟期から晩年に至るまでの作品を収めており、収録作品の執筆時期だけに関して言えば、同じ岩波文庫から出ている初期の作品を収めた『子どもたち・曠野』と対になる一冊と言うことができるだろう。

規範から抜け出せない人物を描く『箱に入った男』、すぐりのある屋敷に憧れてやまない『すぐり』、偶然再会した幼なじみの人妻との恋愛を語る『恋について』の三作品は、チェーホフにしては珍しく、同じ人物が登場するシリーズものとなっている。
とはいえ、登場人物はあくまで物語の枠組みを提供するだけで、作中で物語られるエピソードがメインなので、単独で読んでもそれぞれ短編作品としては成立している。
また、深読みをせずに読み流しても十分面白い『ともしび』は、ペシミズムの脱却という、チェーホフ自身にとっても無縁ではなかったテーマが取り扱われている点が注目に値するだろうか。

谷間の村の富裕な商人一家の運命を描いた『谷間』もまた優れた作品である。
商売はうまくいっているし、長男にも嫁をもらうことが決まり、まるで順風満帆そうな一家ではあったが・・・。
『谷間』は発表当時から非常に好評だったようで、事実、コンパクトな作品ながら個々の人物を巧みに描き分けた情緒豊かな作風は、いかにもチェーホフらしく素晴らしい短編であると感じられる。

チェーホフの主要な中・短編小説は、『可愛い女・犬を連れた奥さん』、『カシタンカ・ねむい』、『六号病棟・退屈な話』、『子どもたち・曠野』、そして本書『ともしび・谷間』によって、岩波文庫ですべて押さえることができる。
チェーホフの描く小説世界に魅了された方は、五冊とも読み通して、いよいよチェーホフの虜となっていただければと思う。
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