『ヘンリー・ジェイムズ短編選集 「ある年の物語」他三編』 (関西大学出版部)


書名:ヘンリー・ジェイムズ短編選集 「ある年の物語」他三編
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:李春喜
出版社:関西大学出版部
ページ数:320

おすすめ度:★★★★




ヘンリー・ジェイムズの作家活動の前半にあたる時期から、本邦初訳となる短編作品四点を訳出したのが本書『ヘンリー・ジェイムズ短編選集「ある年の物語」他三編』である。
代表的な作品が収められているわけではないが、舞台や状況は違えど収録作品のいずれもが非常にジェイムズらしい作風となっているので、ジェイムズファンにはお勧めの一冊となっている。

本書には『ある年の物語』の他に『ユージーン・ピカリング』、『ベンヴォーリオ』、『進むべき道』が収録されている。
『ある年の物語』は、婚約者が戦争に行ってしまうという、きわめてありがちな設定を用いているものの、女主人公の財産や立場といった境遇が特殊な状況を作り出していて、平凡なストーリーから抜け出すことに成功しているように思われる。
父親の過保護からやっと抜け出した、いわば箱入り息子の運命を描いた『ユージーン・ピカリング』も、家族関係のもつれを描き続けたジェイムズらしい作品であるといえる。

詩人を主人公とする『ベンヴォーリオ』は、半ば芸術家小説、半ば恋愛小説といったところだろうか。
どっちつかずでいる優柔不断のベンヴォーリオに、読者が強い共感を抱くことは難しいように思うが、台詞が少ないというのもあって、なかなか密度の高い短編作品に仕上がっている。
本書の収録作品の中で最も執筆年代が後になる『進むべき道』も、結婚と愛をテーマとしたジェイムズお得意の小説であり、その文体からは後期ジェイムズに通ずる面白さが感じられる。
没個性的で観察者に徹する「私」の目線で語られる物語ではあるけれども、そこに個性を想定してみると、また違った読み方もできるのではなかろうか。

本書に収められている四作品が傑作揃いであるというと、それは言い過ぎであろうが、ジェイムズのファンであれば必ずや楽しめる一冊だと断言したところで、それほど言い過ぎではないと思う。
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