『ヘンリー・ジェイムズ傑作選』 ヘンリー・ジェイムズ(講談社文芸文庫)


書名:ヘンリー・ジェイムズ傑作選
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:行方 昭夫
出版社:講談社
ページ数:439

おすすめ度:★★★★




ジェイムズの中・短編作品五編を収めたのが本書『ヘンリー・ジェイムズ傑作選』である。
収録作品を見る限り、傑作選の名にふさわしいラインナップとなっているようだが、『デイジー・ミラー』や『ねじの回転』といった代表作は収められていないので、本書からジェイムズを読み始めるというのにはあまり向いていないかもしれない。

本書には、『モーヴ夫人』、『五十男の日記』、『嘘つき』、『教え子』、『ほんもの』が収められている。
いずれも他の本で既訳のものの再録であり、若い青年に昔の自分の姿を見る『五十男の日記』と、虚言癖のある大佐を描いた『嘘つき』は、福武文庫『嘘つき』を底本としているようだ。
また、底本というわけではないが、画家がそのモデルを通して真贋の差を体感する『ほんもの』も、『風景画家』で紹介済みとなっている。

『モーヴ夫人』は、裕福で無垢なアメリカ人の娘が、伝統はあるが浮薄なフランス貴族と結婚するという、典型的な国際状況ものである。
100ページを超える長めの作品ではあるが、人妻に好意を抱くアメリカ人の青年の登場によってそれぞれの関係性がどうなっていくのか、読者の関心は最後まで尽きないことだろう。

家庭教師と早熟な少年を描いた『教え子』は、ヨーロッパの上流社会に潜り込みたい一心でいる卑俗な家族環境のおかげで、単なる教師と教え子を扱った物語とはかけ離れた作品に仕上がっている。
読者は厚顔無恥な両親にいらいらさせられることであろうが、カタストロフィの予感を抱きながら、こちらも最後まで楽しめる作品である。

原文はもっと回りくどいのかもしれないが、読みやすい日本語として定評のある行方訳なので、ジェイムズは難しいからと構えてしまう必要はないと思う。
本書の中に一つでも読んだことがない作品があるのであれば、手にする価値はある一冊といえる。
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