『バルザック芸術/狂気小説選集〈3〉田舎のミューズ 他』 バルザック(水声社)

バルザック芸術/狂気小説選集〈3〉田舎のミューズ他―文学と狂気篇 (バルザック芸術/狂気小説選集 3 文学と狂気篇)バルザック芸術/狂気小説選集〈3〉田舎のミューズ他―文学と狂気篇 (バルザック芸術/狂気小説選集 3 文学と狂気篇)
(2010/10)
バルザック

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書名:バルザック芸術/狂気小説選集〈3〉田舎のミューズ他―文学と狂気篇
著者:オノレ・ド・バルザック
訳者:加藤尚宏、芳川泰久
出版社:水声社
ページ数:387

おすすめ度:★★★☆☆




『バルザック芸術/狂気小説選集〈3〉』には、表題作の『田舎のミューズ』と『ド・カディニャン公妃の秘密』の二編が収められている。
水声社の選集だけあって、例によって「文学と狂気篇」という副題からそれた作品を収録しているが、その逸脱もここに極まれりといったところだ。
芸術家も登場するが芸術家小説には程遠いし、恋する人間の心をすべて狂気ととらえるのでもない限り、狂気の出現もまったく見当たらないのだから。

『田舎のミューズ』は、バルザックのパリ観とそれに対する地方観が非常によく表れている。
中央集権の進んだフランスならではのことかもしれないが、狡猾なパリ人と素朴な田舎人との対比が非常に明確に、少々行き過ぎではないかと思えるほどにはっきりと描き分けられているのだ。
同様の描き分けは『谷間のゆり』や『ウジェニー・グランデ』にも見出すことができるし、バルザックには典型的なパターンの一つと考えることができようか。

『ド・カディニャン公妃の秘密』は、人間喜劇の読者ならモーフリニューズ公爵夫人の名で慣れ親しんだはずの、あの恋多き美貌の夫人の最後のエピソードで、読み進めるうちに『幻滅』や『骨董室』を思い出す読者もいることだろう。
しかしその裏を返せば、彼女の過去の恋愛についての予備知識があるほうがいっそう楽しめるというわけで、ある程度バルザックを読んだ人向けの作品であると言える。

収録されている作品は非常に面白い、とてもバルザックらしい作品なのだが、『芸術/狂気小説選集』という表現には誇張があるように感じられてならない。
『田舎のミューズ』と『ド・カディニャン公妃の秘密』とは、いずれも「文学と狂気」と聞いて一般の読者が期待するような内容ではないのではあるまいか。
知られざる傑作』や『ガンバラ』のような芸術家小説を予想すれば読者は裏切られる。
バルザックの作品に対してというのではなく、大袈裟な書名に対して低い評価をせざるをえないという、少々残念な本である。
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