『イタリアのおもかげ』 ディケンズ(岩波文庫)

イタリアのおもかげ (岩波文庫)イタリアのおもかげ (岩波文庫)
(2010/04/17)
ディケンズ

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書名:イタリアのおもかげ
著者:チャールズ・ディケンズ
訳者:隈元貞広、伊藤弘之、下笠徳次
出版社:岩波書店
ページ数:432

おすすめ度:☆☆☆☆




アメリカ紀行』と並び、ディケンズの紀行ものであるのがこの『イタリアのおもかげ』。
ユーモアにあふれる筆致は健在だが、小説世界と違って、揶揄されているものには具体的な対象物があるので、ただの皮肉な言い回しにも読めてしまう。
風景や芸術作品を褒めている部分もあるにはあるが、イタリアに対してあまり好意的には書かれていないこの本を読み終わって読者が感じるのは、結局のところディケンズはイタリアに失望したのではないかということ。
同じ旅行記であれば、『アメリカ紀行』のほうがだいぶ出来がいいように思う。

フランスを経由してジェノヴァ、ヴェネツィア、ローマなどを訪れたディケンズが各地の印象を綴っていくのが本書であるが、乞食の多さや不衛生さへの言及にしばしばお目にかかることになる。
まさか嘘を書いているわけではないだろうが、否定的な描写がこうまで多いと、読者は少々退屈してしまうのではないか。
また、ディケンズはイタリア全土に浸透したカトリックや修道院制度にも冷たい態度を見せている。
さすがにローマ教皇にはお手柔らかであるものの、全般に非常に手厳しい記述が目立っている。
単にディケンズはカトリック嫌いだったのではないか・・・そういったバイアスを予想せずにはいられない書きぶりだ。
ふと思い返してみれば、ディケンズの小説には宗教に関する描写がほとんどなかったのではなかろうか。
本書を足がかりにディケンズとキリスト教について考えてみるのもなかなか面白いかもしれない。

『イタリアのおもかげ』からはディケンズの審美眼も読み取ることができる。
「最後の晩餐」を切り抜いた修道士たちに皮肉な一矢を報いるのは共感できるものの、紀行文であるからやむをえないのかもしれないが、論理的な説明なしにベルニーニが駄作呼ばわりされ、また、彼はバチカンを単なる巨大な建物として無感動に眺めることができるという。
これもディケンズのカトリックに対する偏見を予想させる部分ではなかろうか。

この『イタリアのおもかげ』、イタリアに関する本を読みたい読者を満足させることはできないだろうし、ディケンズのファンでもこの本を素直に喜べるかというと非常に疑わしい。
原文の参照などもちろん行っていないが、訳文の読みやすさにも少々難があり、あまり評価のできない本だ。
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