『虐げられた人びと』 ドストエフスキー(新潮文庫)

虐げられた人びと (新潮文庫)虐げられた人びと (新潮文庫)
(2005/10)
ドストエフスキー

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書名:虐げられた人びと
著者:ドストエフスキー
訳者:小笠原 豊樹
出版社:新潮社
ページ数:686

おすすめ度:★★★★




身分の格差や財産の有無によって、弱者を虐げる側と強者に虐げられる側が生まれる、そんなロシア社会を描いたのがこの『虐げられた人びと』である。
発表順でいうと『死の家の記録』よりも後だが、内容的には前期の作品とみなしていいように思う。
登場人物の境遇が右に左に揺れ動く、ストーリー性が強い作品なので、ドストエフスキーの中ではたいへん読みやすい部類に入る小説だ。

これはあくまで主観的な判断でしかないが、この作品、『虐げられた人びと』というタイトルから人が想像するほどの絶望的な悲惨さを描いているわけではなく、沈痛な場面こそあるものの、全体としてはあまり暗い話でもないのではなかろうか。
恋愛や裏切りの交錯する人間ドラマは非常によくできていて、ドストエフスキー特有の小難しい思想も述べられていないから、多くの人が楽しめる作品に仕上がっている。
そこに謎を秘めた人物が色を付け、読者の注意を逸らさないときているので、こちらはただ次から次へとページを繰らされることになるという寸法だ。

話の語り手は小説家を目指す若き青年で、観察者たる彼自身にはあまり面白みがないのだが、ドストエフスキーが自らの過去の経験を反映して創造した人物かと思うと、そんな彼でも興味深く見えてくる。
他の特徴的な登場人物と比べて語り手がやや退屈な人間であるのは小説においてよくあることだが、語り手が常識的、つまりある程度退屈な人間でなくては、語り手の目線と読者の目線がシンクロしにくくなるのだろう。
そういう意味では、『虐げられた人びと』の語り手は格好の性格付けがなされていると言えるのではなかろうか。

読みやすい反面、思想性は弱く、『罪と罰』などでドストエフスキーのファンになった人からすると少々物足りない小説かもしれない。
しかしストーリーを追っていくだけでも十分楽しめる作品なので、現在知られている以上の読者を獲得しても不思議ではない、『虐げられた人びと』はそんな本だ。
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