『回想のシャーロック・ホームズ』 コナン・ドイル(創元推理文庫)


書名:回想のシャーロック・ホームズ
著者:アーサー・コナン・ドイル
訳者:深町 眞理子
出版社:東京創元社
ページ数:465

おすすめ度:★★★★




本書『回想のシャーロック・ホームズ』は、ホームズシリーズの短編集としては第二作目となる。
有名な作品だけでなく、節目となる作品も収められているので、ホームズシリーズに興味のある方ならばこれも必読の一冊といえる。

本書には『シルヴァー・ブレーズ号の失踪』、『黄色い顔』、『株式仲買店員』、『グロリア・スコット号の悲劇』、『マズグレーブ家の儀式書』、『ライゲートの大地主』、『背の曲がった男』、『寄留患者』、『ギリシア語通訳』、『海軍条約事件』、『最後の事件』の十一篇が収録されている。
「銀星号」と訳されることもある、名馬の失踪の謎を解く『シルヴァー・ブレーズ号の失踪』は、ホームズシリーズの短編の中で屈指の有名作品である。
短編にしては文章量の多い『海軍条約事件』も、それだけ読み応えがあり、長く記憶に残る作品となるのではなかろうか。

ホームズが探偵を始める前の若い頃を語るという『グロリア・スコット号の悲劇』や、ホームズ自身が探偵としての駆け出しの頃を語る『マズグレーブ家の儀式書』には、事件自体の面白さだけではないシリーズものならではの楽しみがある。
一方で、ホームズの行った謎解きに十分な説明がなされていない『寄留患者』や、着想は面白いにもかかわらず事件解決に至るまでがシンプルに過ぎる『ギリシア語通訳』は、どこか物足りなさの残る作品だと思う。

これといった謎解きはなされないとはいえ、ホームズに親しんできた読者にとって、ホームズの宿敵であるモリアーティ教授との闘いを描いた『最後の事件』が興味深いものであることは間違いないだろう。
実際にはこの事件がホームズの「最後の事件」にならなかったからよかったようなものの、ドイルが早くホームズシリーズを終わらせようとしたことを思うと、やはり残念な気がしてならない。
いずれにしても、『回想のシャーロック・ホームズ』を楽しまれた読者には、引き続き『シャーロック・ホームズの復活』を読まれることをお勧めしたい。

『ヘンリー・ジェイムズ傑作選』 ヘンリー・ジェイムズ(講談社文芸文庫)


書名:ヘンリー・ジェイムズ傑作選
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:行方 昭夫
出版社:講談社
ページ数:439

おすすめ度:★★★★




ジェイムズの中・短編作品五編を収めたのが本書『ヘンリー・ジェイムズ傑作選』である。
収録作品を見る限り、傑作選の名にふさわしいラインナップとなっているようだが、『デイジー・ミラー』や『ねじの回転』といった代表作は収められていないので、本書からジェイムズを読み始めるというのにはあまり向いていないかもしれない。

本書には、『モーヴ夫人』、『五十男の日記』、『嘘つき』、『教え子』、『ほんもの』が収められている。
いずれも他の本で既訳のものの再録であり、若い青年に昔の自分の姿を見る『五十男の日記』と、虚言癖のある大佐を描いた『嘘つき』は、福武文庫『嘘つき』を底本としているようだ。
また、底本というわけではないが、画家がそのモデルを通して真贋の差を体感する『ほんもの』も、『風景画家』で紹介済みとなっている。

『モーヴ夫人』は、裕福で無垢なアメリカ人の娘が、伝統はあるが浮薄なフランス貴族と結婚するという、典型的な国際状況ものである。
100ページを超える長めの作品ではあるが、人妻に好意を抱くアメリカ人の青年の登場によってそれぞれの関係性がどうなっていくのか、読者の関心は最後まで尽きないことだろう。

家庭教師と早熟な少年を描いた『教え子』は、ヨーロッパの上流社会に潜り込みたい一心でいる卑俗な家族環境のおかげで、単なる教師と教え子を扱った物語とはかけ離れた作品に仕上がっている。
読者は厚顔無恥な両親にいらいらさせられることであろうが、カタストロフィの予感を抱きながら、こちらも最後まで楽しめる作品である。

原文はもっと回りくどいのかもしれないが、読みやすい日本語として定評のある行方訳なので、ジェイムズは難しいからと構えてしまう必要はないと思う。
本書の中に一つでも読んだことがない作品があるのであれば、手にする価値はある一冊といえる。

『ヘンリー・ジェイムズ短編選集 「ある年の物語」他三編』 (関西大学出版部)


書名:ヘンリー・ジェイムズ短編選集 「ある年の物語」他三編
著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:李春喜
出版社:関西大学出版部
ページ数:320

おすすめ度:★★★★




ヘンリー・ジェイムズの作家活動の前半にあたる時期から、本邦初訳となる短編作品四点を訳出したのが本書『ヘンリー・ジェイムズ短編選集「ある年の物語」他三編』である。
代表的な作品が収められているわけではないが、舞台や状況は違えど収録作品のいずれもが非常にジェイムズらしい作風となっているので、ジェイムズファンにはお勧めの一冊となっている。

本書には『ある年の物語』の他に『ユージーン・ピカリング』、『ベンヴォーリオ』、『進むべき道』が収録されている。
『ある年の物語』は、婚約者が戦争に行ってしまうという、きわめてありがちな設定を用いているものの、女主人公の財産や立場といった境遇が特殊な状況を作り出していて、平凡なストーリーから抜け出すことに成功しているように思われる。
父親の過保護からやっと抜け出した、いわば箱入り息子の運命を描いた『ユージーン・ピカリング』も、家族関係のもつれを描き続けたジェイムズらしい作品であるといえる。

詩人を主人公とする『ベンヴォーリオ』は、半ば芸術家小説、半ば恋愛小説といったところだろうか。
どっちつかずでいる優柔不断のベンヴォーリオに、読者が強い共感を抱くことは難しいように思うが、台詞が少ないというのもあって、なかなか密度の高い短編作品に仕上がっている。
本書の収録作品の中で最も執筆年代が後になる『進むべき道』も、結婚と愛をテーマとしたジェイムズお得意の小説であり、その文体からは後期ジェイムズに通ずる面白さが感じられる。
没個性的で観察者に徹する「私」の目線で語られる物語ではあるけれども、そこに個性を想定してみると、また違った読み方もできるのではなかろうか。

本書に収められている四作品が傑作揃いであるというと、それは言い過ぎであろうが、ジェイムズのファンであれば必ずや楽しめる一冊だと断言したところで、それほど言い過ぎではないと思う。

『十五少年漂流記』 ジュール・ヴェルヌ(創元SF文庫)


書名:十五少年漂流記
著者:ジュール・ヴェルヌ
訳者:荒川 浩充
出版社:東京創元社
ページ数:465

おすすめ度:★★★★




『十五少年漂流記』といえば、日本でもよく知られたヴェルヌの作品である。
漂流ものの原点とも呼ぶべき『ロビンソン・クルーソー』のいわば十五少年版で、内容的には『宝島』や『蝿の王』をも想起させる作品となっている。
SF的な要素はないので『海底二万里』などとはかなり毛色が異なるものの、ヴェルヌの特徴をよく表している作品であることは間違いないだろう。

少年ばかりを乗せた船が、なぜかニュージーランドはオークランドから沖に流され、嵐にもまれた挙句、とある陸地へと漂着してしまう。
そこが島なのか大陸なのかもわからない場所で、少年たちのサバイバル生活が始まり・・・。
少年たちが過酷な環境に身を置くのかというとそれほどでもなく、むしろ彼らはかなり恵まれた環境にいると言えそうだが、この本は冒険小説なので、多少の現実離れは読者の方で受け入れる必要があるだろう。

個人的な体験であるが、少年ばかり十五人も出てきたのでは区別がつかないのではないか、という懸念がこの本を手にすることを躊躇させたものである。
しかし、実際に中心的な少年は数が限られているので、何人かの少年は区別できないままに読み進めてしまってもさほど支障はない気がする。
登場する少年たちのほとんどがイギリス人であるにもかかわらず、フランス人の少年がいい役どころを与えられているというのは、フランス人であるヴェルヌらしい配役といえようか。

『十五少年漂流記』は子供向けの文学シリーズによく収録されているので、子供の頃に抄訳に触れられた方も多いはずだが、それが完訳版となると、作品の中頃でストーリー展開が遅い部分も出てくる。
それでも、全体としてみれば十分に読み応えのある作品なので、少しでも興味を持った方はぜひ読み始めていただければと思う。

『八十日間世界一周』 ジュール・ヴェルヌ(創元SF文庫)


書名:八十日間世界一周
著者:ジュール・ヴェルヌ
訳者:田辺 貞之助
出版社:東京創元社
ページ数:316

おすすめ度:★★★★★




ヴェルヌの代表的な作品の一つに数えられるのが本書『八十日間世界一周』である。
本書のストーリーの面白さは万人に認められるものだろうし、さらに登場人物の性格付けが極めてヴェルヌらしいときているので、個人的には、本書をヴェルヌの最も代表的な作品と呼んでもいいように思う。

とあるイギリス貴族が、八十日もあれば絶対に世界を一周できるはずだというかなり無謀な賭けをした。
これを機に、彼の財産と名誉という、すべてを賭けた世にも奇妙な旅が始まるのだった・・・。
今も昔も旅物語なら山ほど存在しているが、本書のように最初から最後まで移動のスピードが鍵となるという旅物語は、なかなか珍しい発想ではなかろうか。
飛行機や高速鉄道の存在しない時代の旅は思うように進まず、トラブルが多発することによって旅は常に時間との闘いとなる。
主人公と共に旅を進める読者も、常にそのスリリングな展開を楽しむことができるはずだ。

けっこう前の話にはなるが、『八十日間世界一周』は右に示すように『80デイズ』というタイトルでジャッキー・チェンを主演に迎えて映画化されている。
あまり原形をとどめていないと言ってもいいほど、原作のストーリーに対して大幅に手が加えられているし、個人的にもろくに記憶に残らない映画の一つとなってしまっているが、少なくとも原作の持つコミカルさを伝える映画にはなっていたはずだ。

その内容からいって、『八十日間世界一周』はヴェルヌの作品の中でかなり読みやすい部類に入るように思う。
本書にも欠点がないわけではないだろうが、『八十日間世界一周』を読んで退屈する読者というものを想像することは、私にはちょっと難しい。
ヴェルヌの作品に関心のある方だけでなく、楽しい読み物を探している方にも自信をもってお勧めできる一冊だ。

『地底旅行』 ジュール・ヴェルヌ(岩波文庫)


書名:地底旅行
著者:ジュール・ヴェルヌ
訳者:朝比奈 弘治
出版社:岩波書店
ページ数:477

おすすめ度:★★★★★




ヴェルヌの代表作の一つが本書『地底旅行』であり、そのタイトルにある通り、地底深く旅するストーリーである。
典型的な冒険旅行である点では『海底二万里』に近いが、『海底二万里』がやや受動的な観点から語られるのに対し、『地底旅行』はより能動的な冒険物語になっているので、痛快さという意味では『地底旅行』の方に軍配が上がるのではないかと思う。

とある教授が暗号文を手に入れた。
それを解読してみると、アイスランドの火口から地球の中心へと向かうことができるというのだ。
探究心に火が付いた教授は、甥を連れてアイスランドへと向かい、そうして「地底旅行」が始まるのだった。
登場人物のそれぞれがいかにもヴェルヌらしい性格を付与されているため、やはり彼の代表的な作品と呼ぶにふさわしいと言えるだろう。

『地底旅行』は、10年ほど前になるが『センター・オブ・ジ・アース』とのタイトルでハリウッドで映画化されている。
岩波文庫の『地底旅行』は挿絵入りなので、読者が共通のイメージを持ちやすいが、そのイメージと『センター・オブ・ジ・アース』とを比べてみるのも面白いと思う。
コメディタッチで軽めに作られている映画ではあるが、意外と原作に忠実な部分が多く、読者受けもそう悪くないような気がする。

『地底旅行』にはところどころ無理な設定もあるようなので、ちょっと皮肉を言わせてもらえば、地には潜るが、あまり地に足は付いていない作品、といったところだろうか。
そうはいっても、そのことによって物語としての面白さが削がれることはないし、老若男女問わずお勧めできる作品であることは間違いない。

『海底二万里』 ジュール・ヴェルヌ(新潮文庫)


書名:海底二万里
著者:ジュール・ヴェルヌ
訳者:村松 潔
出版社:新潮社
ページ数:471(上)、564(下)

おすすめ度:★★★★★




『海底二万里』は、言わずと知れたジュール・ヴェルヌの代表作であるだけでなく、海洋ファンタジー小説、さらにはSF小説における代表作でもある。
決して短い作品ではないが、間延びすることのないストーリー展開に後押しされて一気に読み通すことができてしまうので、ぜひ気軽に読み始めてもらえればと思う。

『海底二万里』の魅力を端的に述べるとすれば、最新鋭の技術を駆使した潜水艦ノーチラス号と、その指揮を執る謎多きネモ船長、この二つであろう。
海中だからこそ起こりうる珍しい出来事の数々もさることながら、全編を通じてネモ船長を中心にミステリアスな雰囲気が漂っているので、読者の興味は尽きないのではなかろうか。

それにしても、『海底二万里』が実際に潜水艦が発明される前の19世紀後半に書かれたことを思えば、時代を先取りしたフィクションであることには驚かされる。
ウェルズのSFが空想的であるのに対し、ヴェルヌのSFが現実に根差したものであるとよく言われているようだが、『海底二万里』はその典型的な例とみなすことができるだろう。

ヴェルヌは、あまりに冷静沈着過ぎるために人としての生気を欠いていると言っても過言ではないような登場人物をしばしば創り上げるが、『海底二万里』においても、その特徴は色濃く打ち出されている。
そうは言っても、登場人物が何らかの危機に直面した時に揃いも揃ってパニックを起こすようでは、読者もかえってうんざりすることだろうから、その極端な冷静さもヴェルヌの人物造形の欠点であるどころか、実はうまくバランスを取っているということなのかもしれない。

『海底二万里』は、読者の年齢層を選ばない、いつ読んでも楽しめる本であり、これまで出版されてきた邦訳の種類の多さもそのことを裏打ちしていると言えよう。
楽しい読書を求める方すべてにお勧めしたい作品だ。

『四人の署名』 コナン・ドイル(創元推理文庫)


書名:四人の署名
著者:アーサー・コナン・ドイル
訳者:深町 眞理子
出版社:東京創元社
ページ数:246

おすすめ度:★★★★★




ホームズシリーズ第二作目となるのが本書『四人の署名』である。
緋色の研究』に引き続き本作も長編作品であるが、ストーリー展開にかなりのスピード感があり、まるで短編小説でも読んでいるかのように一気に読み通せてしまうことだろう。

変化のない毎日に退屈しきったホームズのところへ、何年も行方の知れない父に関係のある謎の手紙を受け取ったという、若い女性の依頼人が訪れる。
その手紙には待ち合わせの場所と時間が指定してあり、友人と一緒に来てもよいと書かれているものだから、ホームズとワトスンと依頼人の3人で指定の場所へと出かけることになり・・・。
『四人の署名』は、特にストーリー序盤の謎が謎を呼ぶ連鎖が、非常にうまく出来上がっているという印象を受ける。
前例のない奇妙な状況が作り上げられるのであって、むやみに犯罪ばかりが起きているわけではないというのも、『四人の署名』の特徴といえるだろう。

長編作品である『四人の署名』には、単に事件解決に関係のある描写だけではなく、ワトスンが年若い女性依頼人に惹かれてしまうというくだりも描かれている。
当然ながら、コンパクトにまとまっている短編作品よりも長編作品のほうが、ホームズとワトスンという人物像を彫琢するための紙幅が、それだけ許されるということなのだろう。
そういう意味では、ホームズシリーズに興味のある方は、やはり長編作品も読むべきだということになろうか。

ワトスンも読者もけむに巻かれた状態なのにもかかわらず、ホームズの推理は事件解決に向けて迅速に突き進んでいく。
短編作品では、時にはそのあまりの迅速さゆえにあっけなささえ感じられるほどだが、長編作品では読者はその手腕を存分に堪能することができる。
とてもよくできている推理小説として、自信を持ってお勧めできる一冊だ。

『緋色の研究』 コナン・ドイル(創元推理文庫)


書名:緋色の研究
著者:アーサー・コナン・ドイル
訳者:深町 眞理子
出版社:東京創元社
ページ数:259

おすすめ度:★★★★




ホームズシリーズの第一作目となるのが本書『緋色の研究』である。
邦題にはいくつかパターンがあるようだが、原題は"A study in scarlet"であり、内容的に見ても本書が採用している『緋色の研究』が最も妥当なところなのではないかと思う。

負傷して戦地から帰国した軍医ワトスンが、ロンドンで手頃な下宿を探していると、友人がシャーロック・ホームズという化学実験に熱中している一風変わった男を紹介してくれた。
二人はベーカー街で一緒に住み始めることになるのだが、ホームズの下へはいろんな事件が舞い込んでくる。
警察からも解決困難な事件への協力を求められ、ワトスンもその殺人現場へ同行することになり、こうして二人の冒険の日々が始まるのだった・・・。
『緋色の研究』は長編作品なので、当然ながら、短編作品の場合と比べて事件解決に至るまでの展開がやや遅いが、その分、読者の側で先読みをしにくいというのも特徴として挙げることができるだろう。

ホームズシリーズを読み始めるうえで、ワトスンとホームズの出会いが語られる作品であるという意味では、第一作目である『緋色の研究』に勝る作品はないと言える。
しかし、『緋色の研究』にはホームズが登場しない場面の割合が多いという難点があり、ホームズの活躍を読みたい読者であれば、短編集から読み始めるほうが格段にとっつきやすいというのもまた事実である。
ホームズシリーズの読破を前提に読み始めるのでない限り、本書よりは短編集から手を付けるほうがいいのかもしれない。

そうはいっても、短編作品が大半を占めるホームズシリーズにおいて、『緋色の研究』が長編作品ならではの読み応えを備えていることは間違いない。
それに、仮に短編集から読み始めたところで、読者がホームズシリーズに失望するとは考えにくいので、遅かれ早かれ、いずれは本書にたどり着くことになるのではなかろうか。

『シャーロック・ホームズの冒険』 コナン・ドイル(創元推理文庫)


書名:シャーロック・ホームズの冒険
著者:アーサー・コナン・ドイル
訳者:深町 眞理子
出版社:東京創元社
ページ数:541

おすすめ度:★★★★★




今でこそ知らぬ者のないシャーロック・ホームズであるが、その人気が急騰した、いわば出世作を収めているのが本書『シャーロック・ホームズの冒険』である。
十二編の短編作品から成っており、ホームズとワトスンが扱った事件、少しずつ毛色の違う、時として危険を伴う事件の数々に触れることができる。

『シャーロック・ホームズの冒険』には、『ボヘミアの醜聞』、『赤毛組合』、『花婿の正体』、『ボスコム谷の惨劇』、『五つのオレンジの種』、『くちびるのねじれた男』、『青い柘榴石』、『まだらの紐』、『技師の親指』、『独身の貴族』、『緑柱石の宝冠』、『橅の木屋敷の怪』が収録されている。
一を聞いて十を知るホームズの超人的な推理はいずれの作品においても冴え渡っており、独特の爽快さを堪能することができるだろう。
それぞれの事件解決までにかかる時間も非常に短いので、そのスピーディーさも魅力の一つとなっている。

本書の収録作品のうち、『赤毛組合』と『まだらの紐』あたりは、ホームズシリーズにおける代表作とも呼べる有名な作品である。
とりわけ、緩い導入部から緊張感あふれるクライマックスにかけて顕著な盛り上がりを見せる『赤毛組合』は、秀逸なストーリー展開を備えた優れた作品であるといえるだろう。
そうはいっても、全体に収録作品のクオリティのむらが少ないのも事実であり、読者はそれぞれお気に入りの作品を見つけることができるのではないかと思う。

『シャーロック・ホームズの冒険』が、ドイルが手掛けたホームズシリーズの最初の作品というわけではないのだが、ホームズ作品を読み始めるにあたって、短編集という手頃さもあるので、本書から始めるのも悪くないように思う。
そして本書を読まれた方は皆、ホームズの人気が出たのも当然であると、必ずや納得いただけることだろう。
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